■ヨハネス・フェルメール「真珠の耳飾りの少女」1665年頃
西洋では主に王侯貴族からの注文を受けてたくさんの肖像画が描かれてきました。
17世紀のオランダでは、経済発展に伴い身分を問わず幅広く肖像画が描かれ、レンブラントやルーベンス、フランス・ハルス、ヴァン・ダイクなどが優れた作品を残しています。
■ペーテル・パウル・ルーベンス「ミハエル・オフォヴィウスの肖像」1615~1617年頃
●「トローニー」とは
レンブラントたちが活躍したオランダ絵画の黄金期には、肖像画とは一線を画したもので、人物画の中でも独立したジャンル「トローニー」がありました。
オランダ語で「頭部の習作」を意味するトローニーは、誰とは特定されない人物の胸から上を描いた作品です。トローニーは実在の人に似せることを目的としておらず、人物におけるさまざまなタイプの表情や性格を描き分けるための習作でした。
画家は自らの顔をモデルにして技術を研鑽することもあり、特にレンブラントが描いた数多くの自画像はそのよい例と言えます。レンブラント「自画像」油彩画ギャラリー レンブラントの自画像はさまざまな衣装を着せており顔かたちも決して同じふうではありません。そのことから習作的な要素が見てとれます。
オランダのトローニーの中でも特に有名なのがヨハネス・フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」です。
マウリッツハイス美術館を訪れる人々のお目当ては3点のフェルメール作品ですが、その中でもこの「真珠の耳飾りの少女」こそがひと目見て帰りたいと思う目玉中の目玉です。
東京都美術館の「マウリッツハイス美術館展」でもこの作品の前に長い列が作られて、間近で見たい人はそこに長い間並び、ほんの数秒ご対面となります。でも数秒じゃ物足りない人のために作品から4~5メートル後ろにロープが張られ、そこからじっくりと見ることができます。
今回じっくりと見させていただきました。
■フェルメール「真珠の耳飾りの少女」顔部分
●「真珠の耳飾りの少女」と対話する
「真珠の耳飾りの少女」は、17世紀当時のオランダの少女がふだんは身に着けることのないターバンを巻いており、別名「青いターバンの少女」と呼ばれています。フェルメールは青いターバンによって少女を異国風の、東洋を感じさせる人物として描きました。
この少女は実在する人物がモデルとなっている可能性はありますが、フェルメールは実際のモデルとは違った性格の架空の人物に仕立て上げようとしたようです。つまりトローニーとしてフェルメールが作り上げた少女なのです。
ならば、鑑賞者としてはこの人物に込めたフェルメールの意図や思い入れを見るのがいいのでしょうか?
否、見る者が主観的に少女に語りかけてみるのがいいのです。
絵画の見方(1)「主観的鑑賞」
絵画の見方(3)「美術館での鑑賞のしかた」
ここに描かれた人物像(少女)は内的にはフェルメールの想像の産物です。この空想によって描かれた少女を、地球上に存在する一個の人格を備えた生命体として見ようとするときに「対話」が始まります。
対話は言葉とは限りません。エネルギーの交流です。実際に生きている存在として実感する瞬間を見出すことです。
■「真珠の耳飾りの少女」部分(目)
■「真珠の耳飾りの少女」部分(口)
■「真珠の耳飾りの少女」部分(真珠の耳飾り)
1650年から1680年の間にオランダで大流行したという真珠。描かれた大粒の真珠は画面全体にアクセントをつけて、まるで闇と光を媒介しているかのように銀色に輝いています。
真珠はこの少女によく似合っています。
ところでいったい誰がこの少女を振り向かせたのでしょう?
誰かの呼びかけに応えたかのように、あるいは存在に気付いたかのように肩越しに振り向いた少女の目はしっかりと見開いているけれど、どこかつかみどころが無くうつろです。そのうつろな目と半開きの唇は何かをこちらに発しているというよりも、いわば無防備です。
無防備、それゆえに少女に内在する素直さや純粋さが際立ち、逆に、見る者の視線を吸引する力を備えています。
でも、少女はこちらの目を惹き付けるだけで、何も語ってきません。
光を受けた「一瞬」の表情は、背後の「永遠」の闇に封印されたまま動きません。
業を煮やしてこちらから少女に向かって言葉を発したならば、言葉は蒸発して静寂の闇に消えてしまいそうです。
ならば、もはや期待を捨てて、あれこれ余計な詮索するのもやめて、素直な心でただ向き合っていようじゃないですか。
・・・・
・・・・
やっと気付いたでしょうか。
これは、懐かしいあなた自身です。
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